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エッセイ『ピアノとの出会い』(幼少期) [『ぶん★文★ぶん』]

福山家では子供のころから父・徹が休みである日曜日に、早朝から大きな音でステレオが流れていた。クラシック音楽が大好きな父である。父はご近所のことなど考える人ではなかったし、まして、家族の早朝睡眠妨害なんて頭を掠めることさえなかったと思う。そのころは迷惑だと感じたのも事実であるが、その蓄積は今、音楽家である自分自身をとても支えている要素につながっているのだろう。父は姉にピアノを、そして、自分にヴァイオリンを習わせたかったらしい。
音楽を学習するものの殆どがそうであるように、姉が最初にヤマハのオルガン教室に通い始めた。年子の自分を連れて母親は姉のレッスンに通った。オルガン教室ではグループレッスンである。普通、男の子はレッスンに連れて行かれ、退屈のあまり騒いだり外に走り抜けたりするものらしいが、自分は姉と一緒に必死でレッスンを受けていたらしい。要するに姉一人分の月謝で、ちゃっかり姉と自分の二人がレッスンを受けていたことになる。それだけ自分には興味を持つことのできる教室だったことになる。父のたくらみだったのか、毎週末、早朝から聞こえてくる音楽が何らかの作用を自分に与えたのだろうか。
そして、翌年、姉はオルガン教室を修了し、ピアノの個人レッスンにつき始めた。そして、今度は自分が正規の生徒としてオルガン教室に入れられた。しかし、なんともつまらない。自分が知っていることをまた一から指導されるのは子供心にむかついた。
姉と同じだけの実力を自分が持っていると勝手に信じていたので、母にオルガン教室をやめて、ピアノのレッスンに通わせてくれるよう頼んだ。すんなりとOKが出たのだ。
かなりうれしかった。もうすでに姉のために福山家では新品のピアノが用意されていた。父は『これは一番高いピアノだぞ。だいじにしろよ。』といった。これが初代・福山家のピアノである。後に、このピアノがU1というヤマハが製造するアップライトピアノの中で一番安価だということを知ったのは、それから20年ほどたって、自分が音楽家として人生を歩み始まってからのことだった。
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